風立ちぬ

「ポニョ」はまだ観てないが。こっちは観に行った。自分に合いそうな気がしたので。結果は良かった。「すげーすげー」という感じではないが、名作だと思う。足し算じゃなくて引き算な作品だからだろう。

史実と、よく知られた小説が元だから話の展開に目新しいことはなく、それが安心感に繋がる。「ハウル」とか「千と千尋」とかのファンタジーは演出はすごかったがもう訳がわからんとこまで行ってて、個人的には正直付いていけなかった。今作は現実世界を立脚点にしたことで意味不明な展開はなかったが、それでも目を見張るファンタジックな映像作りは健在で、このへんのバランスが自分に合っているのかもしれない。

見る前に気になっていたのがゼロ戦設計者の話と名作小説が何故くっついてしまうのかという点。どちらも知っているようで実はあまり良く知らないが(情けなや)、印象として食い合わせが悪いんじゃないかと思っていた。実際、主人公の飛行機設計人生をものすごく足早に描写していた前半に対し、避暑地に着いたとたんゆっくりとした濃厚描写になったのには違和感を感じた。でもラストでストーンと合点がいった。なるほど主人公にとっての「飛行機」=「ヒロイン」なのか。どちらも彼の前では美しく、素晴らしく(モチーフが風というのも一致している)、彼としては真っ当に愛したはず、けれど最後は彼の目前から去り無残に散っていく。そしてそれは将来に向けて前向きに進歩しつつあったはずの当時の日本にもオーバーラップする。見事なのはあえて残酷なシーンを描かないことで、それが儚さとして浮かび上がってくる引き算の演出。理解した瞬間、涙が出た。