かぐや姫の物語

物語は決まりきったスジ書き。斬新な展開とかはない。期待すべきでもない。古典落語でも観に行くつもりで。いかに美術や演出で魅せてくれるかを楽しむ作品。

自分は脚本やあらすじを中心に作品を評価するタイプなので、こういうのの感想は苦手だ。ただただ凄い。あっさりめの作画に、昔の日本のありふれた日常風景の積み重ねがメインだが、この地味さのなかに作り手の想いと技術がどれだけ詰め込まれているというのか。勿体無い仏像でも拝む心持ちでじっくりと鑑賞させてもらった。機会があったらもう一度観たい。

さて。シナリオ周りは触れづらいと書いたが、後になってひとつ思った。
昔話としての不条理さと現代的、というか世界名作劇場的感情を持つかぐや姫のキャラクターが微妙にチグハグで、そこの危ういバランスも醍醐味ではあるのだけど、彼女の心情なら絶対こうするはず、という原作とは異なる展開が2回あった。「え?そっちにいっちゃ行けないんじゃ」と思ったところでどちらも夢オチ。原作どおりの展開に戻る。これはあえて突っ込んだ解釈なのだけど。かぐや姫の「自由意志」が筋書きを変えようといくらあがいても、偉大な昔話の強力な「物語力」というやつでリセットされ、彼女は結局最初から敷かれたレールから一歩も動けない、そんな呪縛を感じた。どちらの展開も、作画がすごい活き活きとしており、制作者もそっちに行きたかったのかと思うほど。呪縛に囚われてたのはかぐや姫でもあり、制作者側でもあるのだろう。

そうそう。これを観ようと思ったのは、「風立ちぬ」上映待ちの予告。

↑このタッチと、ふとリアルを感じる疾走感と、そこに被る淡々と心に響く歌声。実はあのとき心に響いたシーンは「風立ちぬ」本編よりも、こっちだった。そしてこのシーンは原作を変えようとしてあがいたところ。歌も本編では流れない。でも十分だ。

サウンドトラックとしては、挿入歌(?)の「わらべ唄」&「天女の歌」と、なんといっても異彩を放つ「天人の音楽」が聴きたい。

蛇足。「風立ちぬ」の話が出たので併せて書くと、どっちも最後は引き算の作品になったなと。絵柄は相変わらず豪華だが肝心のシーンを書かずに済ませた「風立ちぬ」。シンプルなストーリーに地道な描写を足しまくった一方で、あえて空白を多くした絵柄の「かぐや姫」。老境かくの如し。これもまたよきかな。