青天を衝け

近代で実業家のドラマなんて盛り上がらないに決まってる。そう思って見始めたが、良い意味で裏切られた。脚本の上手さもあるのだろうが、渋沢栄一は、その実業家になるまでの半生がそもそも面白いのだな。
尊王攘夷の志士を目指していたはずが、ひょんな転機で真逆の幕臣に。ヨーロッパ派遣で日本不在の間に明治維新が起きて徳川政権終了。帰国後は慶喜の元で余生を、と思えば国政を任され明治政府の礎を作り、そこでようやく実業家に転身。時代と考え方が大きく変わっていった時期なのでその変わり身の多さも仕方がない。ただ生き方は変わらない。みんなで儲けてみんなで幸せになる日本社会の実現だ。
ドラマのもうひとつの柱として徳川慶喜をチョイスしたのがまた上手い。江戸末期を語るに欠かせない重要なキーマンだが、鳥羽・伏見の戦いで逃げてしまった「卑怯者」。その後の隠遁生活ぶりも彼を主人公として語るのを難しくしている。しかし幕臣たる渋沢栄一の視点を通して見ることで、慶喜の選択が、日本が生まれ変わるための犠牲を最小限にとどめたものとして肯定される。…というのもドラマではなく実際にそういう記録を残しているわけで。慶喜を語るには渋沢栄一をという視点は最適だ。
もっとも、明治に入ってからの渋沢栄一は、やっていることのスケールと数が桁違いでドラマとしては少し面白味の点で弱かった。時間も凄い勢いで50年あまりを突っ走るので、物語としては、どんどん顔なじみが死んでいき、最期の瞬間には、初期からの登場人物がひとりとしていない状況に。もちろん彼の偉業はこの時代のもので、一万円札の顔に選ばれるに十分な実績だとよく分かった。日本の資本主義は基本的にこのひとの思想によって育まれたものだったのだから。岸田首相もいまいち不明確な「新しい資本主義」なんてのより、改めて渋沢栄一の資本主義観をアピールしてくれた方が、少なくとも今の自分には響くね。

最後に主役を演じた吉沢亮について。彼が仮面ライダーフォーゼに出演していたのを知ったのは、わりと後。仮面ライダーメテオか。このひとの顔は整っているがそれほどアクが強くないし、髪型が全然違うので気づかなかった。特にあの作品は特徴的な役者が多く出てたしな。こうして大成されたのはうれしい。今後の活躍にも期待したい。