天穂のサクナヒメ(SW)

天穂のサクナヒメ-Switch

天穂のサクナヒメ-Switch

  • 発売日: 2020/11/12
  • メディア: Video Game
 

今年の春にニンテンドーダイレクトで見た段階で気になってはいた。だが、同じタイミングで出るゼルダ無双もあるしな、後回し…になるはずだった。それが発売後の想定外なブレイク。リアルな稲作、という話にがぜん興味が湧き同時プレイに。面白さもゼルダ無双以上だったので、優先プレイに切り替え。そしてクリア。いいゲームだった。

ここからは、稲作>アクション>世界観>音楽という流れで語っていきたい。

まずは稲作から。本来は地味なこの点が逆に特殊な評価を得て知名度が上がった。実際に田おこしから始まり、苗床、田植え、分けつに伴う水量調節、稲刈り、干して、脱穀、精米。工程はこんな感じかな。肥料はフルMAX(トライフォース)にしがちだが、収穫数より味や香りを優先するならそういうわけにもいかない、とかそのあたりからリアルさを増していく。難易度を最低にしてたからか、じっくり年月をかけたからか、あまり気にせずに済んだ。ただ。台風の時期にわざわざ田んぼを見に行ってお亡くなりになる農夫のニュースを見るたび、どこか愚かに思えたものが、その気持ちが良く理解できるようにはなった。水がその年の米の出来を大きく左右する。そりゃ気になるわ。

次にアクション。羽衣バトルは軽快で普通に楽しい。必殺技で周囲の敵一掃も快感。ただ、羽衣で後ろを取るのが楽しいのに、後ろ足で蹴ってくる鹿にはうんざり。こいつ前からだと角で攻めてくるし。死角作れよ。難易度は低いし、年月かけて米作ってるからか程よい厳しさ。ボスキャラなんてほぼダメージなしで戦えて楽々。ただ羽衣やジャンプを微妙なタイミングで操作しないと進めない場所ってのは難易度関係ないからな。ここは不快なポイントでしたわ。

そして意外と評価の高いのが世界観。(ネタバレあり)
和風かつ二つ世という世界観はうまい作り。神の世が豊かになれば人間の世界も穏やかに。それもサクナヒメによる賜物。豊穣の神(稲作)と武神(アクション)の血を引くというゲーム性に即した生まれ、そして始めは酒癖の悪い怠け者が土地と民を持つことで絆と自覚を持ち、成長していく主人公=サクナヒメのキャラ設定は完璧。
一方人間たちは、構成的には大人男女、子供男女、そして赤ちゃんという「家族構成」なのにそうならない癖のある面々が集まっていて、彼らが不安定ながらうまく調和を成していく過程もいい。個々に感想を述べておきたい。

田右衛門:「たうえもん」って出来過ぎなネーミングもあだ名となれば納得。
彼も侍かつ野良仕事好き、とサクナヒメと関連する属性を持つが、このひとが活躍するようではゲームは面白くならない。どっちもテンで駄目な役立たず、と思わせておいて彼にはその知識と心の大きさというサクナヒメを導く属性がちゃんと備わっているのだった。成長など全然なく、だんだん彼の良さが浮かび上がってくるというところも成長キャラ、サクナヒメと対照的。

ミルテ:食事の作り手。貴重な大人の女性キャラなのに外人聖職者というキワモノ設定なのは勿体ないところ。ただ、それを彼女の属性にすべきだったかどうかは別として、外部からの視点という役割は非常に重要。和風ファンタジーというやんわりな世界観も彼女の目で評価されることで際立ってくる。

きんた:鍛冶屋。素朴で平凡。荒んだ人の世の代表であり、彼がサクナヒメと共に成長していくことで、人の世も同じように強く大人になっていったのではないかと推測できる。

ゆい:織物屋。貴重な美少女枠だが、この人はキワモノ。というか獣?だからな。その分一番理解しづらかったキャラ。きんたを慕っていたはずが、ラストは別々の道を行くってのもな。人として成長し始めた、ということなんだろうか。

かいまる:本当は幼児だか、心身のショックで実質赤ちゃん。その分無垢度は高く、家畜を連れてきてくれる。また、荒んだ世をリセットさせる切り札でもあったってことかな。

特に好きなエピソードは「田植え」と「ラスト前」。
不平不満を歌で紛らわして田植えに専念する、という田植え唄の話が日本の農業の歴史と実際に重なるのかは調べていないが、そうなんだと非常に納得度が高かった。前半のグダグダになりがちなシーンだが、その説得力でしっかりと見られた。もちろんこれをきっかけに一同が少しづつ絆を培っていくわけで重要なシーンには違いない。

そしてあえて書きたいのが、ラスト前。日本の米の話を描くのであれば、神への感謝の儀式としての祭りは必須。そこをちゃんと表現してからラスボス出現→成長したサクナヒメの頼もしい口上→一同の田植え唄での見送り→ラストバトルへの覚悟をもった出陣の流れよ。自分の記憶ではなんか太平洋戦争へ赴く兵士たちのような印象を受けたが、もっと昔の農民兵らの出陣もこんな感じだったのかもなと、メンタルに響いた。

音楽。もともと和風の曲は雰囲気に特化してメロディは弱いのではないかと思っていた。実際そういう曲も多いのだけど、春先に流れる「萌(めばえ)」や収穫期の「稔(みのり)」など、なかなか気持ち良い穏やかな曲もあって嬉しい。もちろんバトルテーマの「暴(あばれ)」や「戦(いくさ)」もいい。そしてもちろん、このゲーム全編にちりばめられたテーマ曲、「ヤナト田植唄」。序盤の「田植え」シーンで聴いたあと、絶対にエンディングでも歌うはず、と動画探して聴いてしまったので、終盤になって「第二主題も実は田植え唄の一部だった」という衝撃を味わうことは出来なかったが、うむ。期待どおり。民謡のうまい方に歌ってもらって良かった。


天穂のサクナヒメ ED (ヤナト田植唄・巫)

海外版も日本語のままだと思われるので、外国のゲーマーに日本の民謡の味の一端を知ってもらう良い機会になったのではないだろうか。という自分も民謡の良さを知っているとは言い難いのだが。

※なお、音楽については作曲者自らブログにて解説記事を執筆。必見すね。

perfectvanity.at.webry.info

こんな名作がほぼ2名によって作られた、ということには驚愕を禁じえなかった。そりゃモンスターの種類がちょっと少ないとは思ったが、十分なボリューム感。Switchになってから、だいぶインディーズっぽいゲームを見る機会も増えたが、これまでは正直甘くみていた。こころざしと実力、そして根気があればここまでできるものなのだな。次回先も(当分先かもしれないが)期待しておきたい。

今年は和風ゲームとしてGOHST OF TSUSHIMA が話題で。任天堂ユーザーの自分にはプレイできないのが残念だったが、「天穂のサクナヒメ」も、規模と種類は全然違うものだが、あえて比肩して語れる今年の和風ゲームと言えるんじゃないだろうか。

最後に。パッケージの豪華版にはサントラは付かないものと看做していたのだが、PS4には付いてたのな。悔しい。いろいろと事情は察するが、それはそれとして感情的に悔しい。なのでチョメチョメしてMP3版を入手してやったわ!ふん!