タイトロープの女

NHKのドラマ。ゲームしながらひととおり見た。ドロドロした人間模様、裏切り、暗めの演出で観てるのも結構つらかったが、一応のハッピーエンド。少し構造を整理して成程な、と。
※ 以下、後半のストーリーにも言及するのでネタバレ注意

ドラマは十倉ワイヤー社の創業者であった十倉龍司(=主人公・由梨(池脇千鶴)の父&恭子(高岡早紀)の夫(ただし前の妻と離婚後に結婚。由梨は前の妻との娘))の死で始まるが、物語は終始この龍司を巡るものだった。龍司のシンボルである十倉ワイヤー社の復活をかけ、娘と後妻が争い、最後に互いの絆を理解するという結末になっている。

後妻側はもともと愛人として龍司に関わったことからずっと「本物の妻ではない」扱いを受けている。もっとも彼女は龍司の愛を本物だったと信じてはいて、その愛に報いるため十倉ワイヤー社の建て直しに賭けようとする。一方、主人公である娘は前妻との間の「本物」の娘であるが、逆に愛人と結婚して母を捨てた龍司からは裏切られたと信じていて、最初は意地のような形で会社の経営に携わる。ちなみに会社経営能力は、龍司の秘書をしていた後妻にはありそうで、会社から遠ざかっていた娘はズブの素人。これを簡単にまとめるとこうなる。

・ 娘:龍司との繋がり=真 / 龍司からの愛=偽 /会社経営力=無
・後妻:龍司との繋がり=偽 / 龍司からの愛=真 /会社経営力=有

全くの正反対。ただし気性の荒さ?だけは似ていて、互いに反目しつつ、協力しあっていくことになるが、終盤に入ると、上記の正反対構造がガラリと逆転してしまう。娘は会社の社員たちと労苦を共にして経営力を蓄えていくが、母の手紙で自分が龍司の子でないことを知る。だが社員らの言動で、そんな自分でも龍司から愛されていたことを理解する。つまりこうなる。

・ 娘:龍司との繋がり=真 / 龍司からの愛=偽 /会社経営力=無

・ 娘:龍司との繋がり=偽 / 龍司からの愛=真 /会社経営力=有

・後妻:龍司との繋がり=偽 / 龍司からの愛=真 /会社経営力=有

ここに至り、娘と後妻は互いを同志として理解し合えるようになったのだ。残った違いは外部からの認識と、その身分。最終的に娘は会社の経営を安定させた社長に納まり、後妻は会社での居場所をなくしてしまう。が、それはそれとして戦友として認め合うラスト。しんみりと感動的な場面だった。

ちなみにこのドロドロとしたドラマを見続けられたのは、十倉家顧問税理士である矢沢(小澤征悦)がいてくれたのが大きい。一見冷たいようでユニークな雰囲気の彼が、いつも物語における正論をきちっと示してくれていたので、先が見えづらい展開でも道しるべになってくれたように思う。