八日目の蝉

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

映画の取材に行くことになったので、事前に原作を買ってみた。(結局映画はまだ見てない。)
そういえば最近はまともに小説を読んでいない。読んでもファンタジー系ばかりなので、こういうタイトルを読め込めるが少し不安だったが杞憂だった。わりと厚い本だったが、夜に上野駅で購入。帰りの電車&寝るまでに1章。翌朝出社で品川駅に付く頃には全編読み終えた。まだまだ自分にも読書力があるのだな。

感想。母として、娘としてまっとうに生きられない女たちの物語、とでもいえば良いか。不倫相手の男のふがいなさで堕胎し、子供を産めなくなった(と思い込んだ)「母」になれなくなった希和子が、不倫相手の赤ん坊を衝動的に誘拐しての逃避行が1章。自分の娘でない現実を振り払うようにして、母であろうとあがく一途な姿が愚かしくも悲しい。希和子視点で書かれているので、不幸な結末しか待っていないとわかっていながら、ただ一日でも長く偽りの母を続けたいという強い想いに惹かれてしまう。もちろん、そんな生活がいつまでも続けられるわけはなく、ちょっとしたことであっけなく捕まってしまうわけだが。個人的には1章だけで十分満足できる出来。
2章はその後大人になった娘の薫(←希和子が勝手に命名)、じゃなくて恵理菜(←本名)が、図らずも希和子同様不倫相手の赤ん坊を宿し、また、かつて希和子との逃亡生活で出会ったマロン=本名:安藤千草と共に当時の逃避行を辿る旅に出る話。事件の当事者ド真ん中の希和子と違い、こちらは幼い記憶とその後のトラウマが頼りなのでドラマとしてはあまり身につまされない感じ。第三者視点だしね。その代わり当時の事件を客観的な観点で追ったり、時代を通した立体感で見られたのは良かったかな。
映画の取材ではそんな現代組(=恵理菜+安藤千草)がキャラ掴みに苦心したとの話に納得。役柄的には希和子の方がやりやすかったみたい。撮影では子供と触れ合う機会も多かったらしいし。そりゃそうだろう。