さよなら、ピアノ

実家に帰ったら、母が勝手にピアノの売却を決めていた。

自分が物心ついた頃からある、大事なピアノ。40年ものだ。しかし理屈のうえでは反対することが出来なかった。誰も弾く人間がいない。家も老朽化し、諸々整備する際に邪魔になる。老いゆく母自身がまだ元気なうちに(本当に元気ではあるのだが)身の回りを整理しようとしているのもわかる。反対する理由はただひとつ。ノスタルジィだけだ。

明後日には業者に引き渡され、外国のどこかで使われるだろうとのこと。廃棄してしまうよりは十分マシか。鍵盤を上から下まで、音を確かめた。ろくな調律もしてこなかったし、そもそもこんな状況でまともな曲のひとつも弾けない自分がもどかしかった。