選択

会社からの帰り道。それなりに人通りもある道。いつものようにMP3プレイヤーで曲を聴きながら、携帯でネット掲示板を見ながら歩いていると、声を掛けられた。横を向くと車の中から男が呼んでいる。道を尋ねているのかと思って近づくとそうでもないようで、男は小さな箱を取り出した。中には金色に輝く腕時計がふたつ。「・・・じゃないけど、あげますよ」と、そんなことを言いだした。タダでくれるような口ぶり。自分はとっさに、特に何も考えず、軽く断った。すると男の席の奥にもうひとり、いたようで(男が座っている方が運転席だと思ってたのだけど、左ハンドルだったのか)車はすっと動き去っていた。
もとより貧乏根性の強い自分だ。もうちょっと時間をかけて誘惑されたら、手を出していたかもしれない。でも、これはあまりに不気味だった。もう少し車に近寄ったら、引き込まれて拉致されたかもしれない。因縁つけられて別の高いモノを買わされていたかもしれない。いやいや、事情は知らないけどちょっとした親切で僕にくれようとしていたのかも…やっぱり不自然だ。たとえ何もなかったとしても気味が悪くて自分は使うことも売ることもできなかったろう。とっさに断ることが出来たのは何よりだった。少しでも迷っていたら?もう知るすべはない。