春ゆきてレトロチカ(SW)

めっきりリリースの減ったアドベンチャーゲーム。それも実写。しかしそこには少なくも根強いファンがいるのだ。自分もそのひとり。あのスクエニが実写ADVの新作を出すという情報にはわくわくした。アナザーマインド以来かな。コスパが悪い。そんなのは承知のうえ。だからこそ買い支える必要があるんだよ!だが、個人的にいろいろバタづいていた時期で発売日購入を逃したのが悪かった。月が替わって店を巡るとおおぅ!どこにも売ってないぜ。売れないのが分かりきっているから、相当販売本数を絞ってきたようだ。うむ。妥当な判断。今ならダウンロードという手もあるから販売チャンスを逃すこともないよねということだろう。…でもね。こういう一回クリアしたら終わり、なタイトルをダウンロードしてSDカードを埋めてしまうのは容量が勿体ないのですよ(※)。スクエニには申し訳ないが、今回は中古で購入とさせていただく。新品より2,000円近く安かったし、ミニサントラのURLも使えた。助かった。

(※この後、別のソフトをダウンロードしようとしたら、ちょうど容量が尽きたのだった。)

さて、クリアしたので感想。
まずは主人公桜庭ななみに驚く。三菱地所を見に行く少女のイメージしかなかったが、今作ではすっかりおばさ…げふんげふん。誰もが時間とともに大人になっていくのだ。髪を上げているのが、より大人びた雰囲気にしているんだろう。もちろん十分主役を張れる美人であることには間違いない。そして、葛葉紘汰…鎧武のひとの姿も。思えば危険な「果実」に人生を狂わされる設定はライダーと同じなんだな。
システムは、わりとざっくり。事件発生後、推理ターンでプレイヤーの出番になるわけだが、絵合わせをしているうちに、事件を解く仮説が集まってくる。それら仮説を頭に入れてから関係者を集めて推理を披露。なんとなくこれじゃないかな、と思った仮説が推理に反映されて決まるとそれは気持ちいい。が、頭が整理できていなくても、たまたま適当に選んだ選択肢が正解なら先に進めちゃう。外れても簡単にやり直せるというのはゲームの緊張感をキープされる意味では確かにマイナスなのだけど、解けない間次に進めないというのはヌルゲーマーとしては困ったことで。これぐらいの塩梅はとてもありがたいところ。推理で間違った時の周囲の反応を楽しめるのもいいね。ニヤニヤされたり、気まずい空気で場が緩むのも傍観者としては面白い。
このシナリオの特徴は、歴史を跨いだ物語を楽しめるところ。不老がテーマだから、大正時代の重要人物が今この瞬間も身近に潜んでいるかもしれない。そして秀逸な演出手段が「マルチロールシステム」で。過去の事件のあらましは主人公がその時代に書かれた原稿を読むことで行われるのだが、現代の主人公が当時の登場人物の顔かたちを現代の知り合いのそれを当てはめて想像しているという手法をとる。(←この文の説明はうまくないが)ゲーム中ではすんなり入り込める。同じ役者を使いまわすから開発予算的にやさしい。役者側も作品により入り込めてやりがいがある。ユーザーからしても、同じ役者の違った演技が楽しめるし、不老の、その当時に「不老になった人物」は今はどんな姿なのか、なんて考えてしまう楽しみもある。まさに宮本茂の言う「アイデアというのは、複数の問題を一気に解決するもの」の好例だろう。

実写アドベンチャーとして書きたいのは、以前のそれと比べて動画が増えたこと。初期の例で言えば…「アナザーマインド」などのPS1時代。容量の問題もあってほとんどが静止画となるが、それがチープ感に繋がっていたと思う。アニメ絵は静止画でもそれほど気にならない。むしろ動くと高評価だが、リアルな映像は動画が普通。特に人物が固まったまま動かないことが違和感を感じさせていたのだろう。今作は、あまり動きのない場面でも基本動画。微妙な表情の変化、動作を見せてくれている。チープさは感じられない。そう、今ようやく実写系ゲームでも十分に通用できる環境が整ったといえるわけだ。役者の出演料だとか、背景の権利関係とか、CGゲームとは別の課題が山盛りなのはわかるが、数をこなせばノウハウも溜まっていくはず。この作品のシリーズ化、他社参入があると期待したが…相変わらず難しそうだ。

最後に音楽面で。林ゆうき氏は実績ある作曲家と紹介されているが、プリキュアの過去作で氏の曲に感動したことはほとんどない。スタートゥインクルの変身時の歌ぐらい。今作も長く聴きなおしたい曲はないかな。もちろん役者の演技を邪魔しない、雰囲気を醸し出す意味でいい仕事をしていることは確かではある。