シブヤで目覚めて

 

アニメが世界中で流行っているのを知りながら書くけど。それでも。

今後、日本から文化を世界に発信することはそんなに増えると思わない。
もともと海外にわざわざアピールしようと思わない国だし、少子化でコンテンツを作る力も減っていく。けれど、これからは世界が日本を発見していくことになるだろう。
海外掲示板を読んでいてわかるのは、世界の結構な人数が日本に関心をもっていること。が、まだまだステレオタイプの偏見に満ちたものばかり。それでもネットで得た知識を実際に観光で来て、と着実に日本を知る海外のひとは増えており、そういうコンテンツはこれからもっと増えていくだろう。

最近はそういうテーマで世間をウォッチしているのだが。昨日本屋でこの本に興味を持った。結構な値段なので図書館で借りれないかとも調べてみたのだが、待てない。さっさと買って読了した。

日本に魅了されたチェコ人が書く、「日本に魅了されたチェコ人」の物語。主人公のキャラクターがそのまま作者を反映している、自分のことを書いた面も多いようだ。そんな主人公(=プラハの大学の日本文学専攻女学生)が追うのは、大正時代の日本人作家。その作品を読み解くうちに、作品のキャラクターが、日本人作家本人の自伝的性格を持っていることに気づき、その作家の生涯を追いかけることになるのだが…。物語にはもうひとつ軸があって、主人公がかつて旅行で渋谷に来たとき、ここに残りたい、という願望によって分裂したもうひとりの主人公が、もとの本人に戻るため、主人公(オリジナル)を日本に呼ぶ物語でもある。

多重な構造が複雑に絡み合うが、文体は軽めで読みやすい。肝心の日本についての描写がかなり自然で違和感がない。作者自身が日本文学のチェコ語翻訳者であることもあって、翻訳がスムーズに進んだこともあるのだろう。馴染みの日本コンテンツ(文学、アニメ、ゲーム)はもちろん、それらをどのようにチェコにひとたちが消化しているか、というのもビビットに伺いしれる。日本文学を専攻する輩は日常で犬夜叉の恰好をするようなウィーブばかりだったり、堅物の日本研究者の、日本にはまるきっかけがファイナルファンタジーだったり。主人公(オリジナル)の出番が途中で尻切れてしまっているのは少々寂しいが、ハッピーエンドへの道筋はちゃんと提示してあるので良いでしょう。この作品で、日本に関心を持つチェコの人々が増えたら嬉しいし、日本に関心を持つチェコ人に関心を持つ日本人が増えるのも良いことだ。