サイレント・トーキョー


映画「サイレント・トーキョー」15秒CM X-DAY篇

ロケ地に、以前の職場があった東京ベルポートが使われている。それが観に行った動機。ちょくちょく撮影に使われる場ではあるが、大きなスクリーンで見られたのはうれしかったね。序盤のみだが大活躍だ。で、ベルポートを堪能した後はじっくり作品自体を観る。以下はネタバレ上等での感想。

まず。つくりがうまくない。本作のミステリーとしての肝は、なかなか登場してこない真犯人で、序盤からわざと怪しい人物を仕立ててミスリードさせようという意図は伺えるが、描写が甘いので、見てる方が安心してその人物を犯人と看做せない。きっと他にいるんだろう。一見そう見えない人物が犯人かもな。…とまあそういうことでしたよ。

それと、エンタメならそう特化してくれれば良いものを、中途半端に社会派気取ったテーマ設定が気に入らない。ならば書かせてもらおう。「戦争できる国」につき進む総理大臣に対して、最前線に行った自衛官が「現場の悲惨さも知らないくせに。お前らは戦争を分かっていない」と言いたくなる気持ちは理解できなくもない。が、現場にいた者は、逆に大局がわからないものだ。近隣諸国が軍事力を高め、侵略的敵意をむき出しにするような状況で、自国の軍備をないがしろにするようでは、パワーバランスが崩れ却って戦争・紛争トラブルのリスクが高まる。政治はそういうところを見るべきで、現場の感傷にひきずられるとむしろ正しい判断ができなくなる。
だいたい海外派兵された自衛官に対して「あなたたちが来たから余計現場が混乱して私の家族が死んだ」とアピールして自死する少女がおかしい。実際そういうこともあるかもしれないが、現場の問題の元凶は、その地域で紛争を始めた者達と、それを治められない現地政権にあって、自衛隊は関係ない。むしろ彼等を撤退させたところで戦乱が収まるどころが激しくなる可能性の方が高い。そんな背景で頭のおかしくなった元自衛官に鍛えられた主婦が真犯人なので(言っちゃった)彼女も頭がおかしくなっている可能性は残してはあるものの、制作側のスタンスは明らかに犯人側なので自分としては納得がいかないのだ。正義感が安直すぎるぜよ。

ただ一点。犯人と制作側、そして自分も意見が一致する点がある。それが渋谷交差点爆破のシーン。爆破予告が出ると逃げるところかむしろ集まってきてバカ騒ぎする野次馬が、実際に爆発に巻き込まれて死傷するのはまさに「ざまあみろ」な感覚で。もちろんリアルに起きたらそんな不謹慎なことは言えないが、虚構だからこそ明言できるし、バカ騒ぎに行きそうな人達にこそ見ておいてほしい。制作側が一番言いたいことはおそらくこの点。散々ハロウィンで見せつけられて時節としては合っている。製作費もそのシーンに一番お金かけてるようだしな。もっとも、新型コロナでそんな状況にマッチしない現状は皮肉でしたな。